
一章
5・いつもと同じ朝 -2
「ただいまー」
帰宅するとアリオンはベッドの上に着のみ着のままドサリと座り、持っていた缶ビールを開け勢いよくあおった。
「起きねええ。これが飲まずにいられっかあ」
今日店であった事を思い出しため息をつく。
「まさかおっちゃんもゼノスの行き方を知らないとは。なんなんだよ、ちゃんとしてくれよ皆」
アリオンは自身に降りかかった苦難にぶつぶつ言いながら酒を流し込んだ。皆と夜飲みができなくなったため一人晩酌が定番となっていた。暗い部屋で間接照明だけ点けて。
「あそこのあの、白い空間なんて言ったっけ。イオが眠ってたあそこで呼びかけられればな。店で話しかけたりするより効きそうなのに」
酒を飲みほしてぼんやりとしたアリオンはそのままベッドにひっくり返った。その拍子に頭上に置いておいた部品やらガラクタがバラバラと床にちらばる。
「おっと危ね。なんか石がたくさんあるな」
部品を拾い集めながら転がってる石をアリオンは手に取りまじまじと見つめた。
「そうか、これでラジオを造ろうと思ってたんだっけ」
ここから北にあるリバーという地下街では良質の鉱石が取れる。町から行商人が来ていた時買ったような覚えがあった。それに廃機材から収集した部品を組み合わせて作る。鉱石ラジオというやつだ。最近はイオの事ばかりに奔走して、少し前の事をすっかり忘れていた。部屋には他にもやろうと思って手つかずになった機械たちが埋もれているに違いない。イオに出会ってから生活は一変してしまっていた。
急に顔の左側が明るくなった。アリオンが振り向くと、しっかり閉めて固定していたはずのカーテンが半分ほど開いており上空の暗い雲から青い月が覗いていた。アリオンは慌てて窓に駆け寄るとカーテンを引っ張って部屋を暗室に戻した。いつから開いていたのだろう。先ほどベッドに倒れこんだ時に体のどこかをひっかけたのかもしれない。カーテンを閉めたのに部屋はあまり暗くならない。カーテン越しの強い月の光がこの部屋を狙い撃ちしているように感じた。
(見つかった?)
アリオンは動悸がして、光から隠れるようにベッドの脇の影に腹ばいになった。それでもすぐ近くで明るさを感じ、妙だなと思っているとジャケットの中で例の小瓶が緑色に光っているのを探り当てた。アリオンは手のひらにそれを持ち中を見た。
水の中に細かい泡が渦を巻きながら、様々な風景が現れては消える。まるで情報を無作為に拾い上げて放出しているような現象。
もしかしたらと、アリオンは小瓶を手で強く握りしめた。
「緑の水。俺をイオの居た白い場所へ連れて行ってくれ」
アリオンの視界を深い緑色が満たしていった。
気が付くとアリオンは赤黒くぬかるんだ大地に立っていた。じっとりとした生ぬるい湿気に覚えがある。植物の茎の様なものが絡み合って伸び、壁や洞窟の様な天井を形成している。茎の中はやや透けていて時々細かい泡が上昇していく。アリオンが片足を地面から引き離すと柔らかい土がべったりとくっつき、一歩前に出すとずぶずぶぬかるみに沈んだ。
「戻ってきた」
アリオンはつぶやいた。
「けどここじゃねえよ・・。白い場所だって言ったのに」
右手で額を押さえてアリオンは頭を横に振った。
「うそつき!!」
アリオンが天井に向って叫ぶと声は思いがけず反響した。植物の茎が束ねられ封じ込められたような壁の中を自分の声が昇っていく。出した本人が驚いているとなんと声が吸い込まれた上の方で返事があった。
「おーい、アリオーン」
「何だ誰だ!」
「ここに居るよ」
アリオンは見上げて姿を確かめようとした。
「アリオン、飛ぶんだ。生体プログラムでジャンプして」
言葉を聞き分けると同時にアリオンは『護身用パック』を起動して地面を蹴り上げた。実際は地面から勢いよく引き抜いたと言った方がよかったかもしれない。
ずぼり、と大地から抜け出したアリオンは天井に衝突したがそのまま上に突き抜けてしまった。壁の中を上昇すると視界一面が水の中に居るようだった。
たくさんの植物の茎や葉の集合体を押しのけたり破りながらアリオンは上昇した。そして、
「やあいらっしゃい」
上昇が止まりアリオンが太い植物の茎の上に着地すると、目の前に彼のひざ下位の大きさの灰紫色の兎が駆け寄ってきた。
「今いた所は獣がたむろしてて危険なんだ。こっちのほうが安心して話せると思ってね。アリオンも大分この世界に慣れて来たんじゃない?・・どわわわっむぐ」
アリオンが突然兎の顔を両手でつかんだ。
「捕まえた!いつも言いたい事だけ言って消えやがって。今度こそ全部話してもらうぞゼノ」
「わー、ごめんよ。でも僕だって消えたくて消えた訳じゃないんだよう。僕は青い月が出てる時しかこの世界に居られないんだよ」
怒りに我を忘れて思わずゼノを掴んだアリオンだったが揺する手を止めた。
「あーそうだっけ。この間も言ってたな」
「そうさ。今日は青い月が出たからこうしてアリオンをここに呼んで、僕も出てくることができたけど今も時間は有限なのさ」
「ゼノが俺をここに呼んだのか?」
「そうだよ。青い月が出た晩はエネルギーが溜まるんだ。これからは青い月の夜に緑の水をのぞき込んで見て。そうすれば僕に会えるから」
「あの小瓶の水か。さっき月を見た後、水が光って見えたからもしかしたらと思って願ったんだ。でもイオの居る白い場所へって願ったんだけどなあ」
アリオンは首をかしげてゼノの顔を掴んでいた手を緩めた。
自由になったゼノは首を上下左右に曲げてこきこき音を鳴らした。
そして「進捗どう?まあここにでも座って」と、ちょうどいい高さの赤紫蘇色の巨大な葉の上に飛び跳ねて座った。
「俺乗っても平気か?」
「大丈夫だよ。ここ、リーフチャンネルにある物は全て情報でできてるんだ。さっき水の中を通ったり植物にぶつかっても平気だったでしょ」
「・・よくわからんけど大丈夫だな」
「アリオンが居た世界とはチャンネルが違うからね。実体も違うのさ」
アリオンが恐る恐る腰掛けても植物の葉はびくともしなかった。
「さあお望み通りなんでもきいてくれたまい。月が消える前に」
青い左目をきらりと光らせてゼノは両手を広げた。
「色々言いたい事あるけどまずゼノスの場所だ。どうやって行ったらいいか教えてくれ」
「あれ?アリオン知らなかったっけ」
アリオンは無言で再びゼノの顔に手を添えた。
「・・知らなかったね。ごめんなさい。僕言ってなかった」
アリオンは手を下ろした。
「ゼノスへは列車で行けます。駅に行ってオールフリーパスで乗れるよ。ゼノス行に乗ってね」
「そんなのあるのか、初めて聞いた。けどA街の地下鉄は環状線でゼノスなんて地名ないぜ」
アリオンが驚いて聞き返すとゼノは首を横に振った。
「地上の駅だよ」
「地上・・。まさか」
アリオンの頭の中に山肌に何年も工事中の状態で放置されているトンネル発掘現場が思い描かれた。
先日もその変わらない姿を見たばかりだ。
「地上に駅は一つあるけど、あそこ俺が生まれる前からまだ開業してない。トンネルも掘りかけてそのままだ。電車は出てない」
冗談だろうと笑ってみせたアリオンだったが、ゼノは少しも動じない。
「行ってみて。そしたら僕のいう事がわかるから」
その自信に満ちた態度にアリオンの半笑いも引っ込んだ。
「う、うん。そんなに言うなら行ってみるわ」
「うん」
ゼノは嬉しそうにぴょんとその場で飛び跳ねて見せた。
「アリオンとイオがゼノスに来るの、楽しみだな~」
「無事にたどり着けたらな」
「大丈夫だよ。なにかあったら僕も助けに行くし。青い月の夜限定だけど」
「頼りになるのかならないのか」
アリオンはため息をつくと続いてイオについて話した。
目覚めさせるため試行錯誤を重ねている事、森で会った過去のイオからレターが送られてきた事を語った。
特にイオを人間に戻そうとしている事についてアリオンはゼノの反応が気になった。
「アリオン、イオの事凄い頑張ってるじゃん。
僕はアリオンがイオを人間に戻したい気持ち、とても支持するよ。応援するよ」
彼が前向きにとらえている様子にアリオンはほっとした。そして改めてゼノの全身をまじまじと見た。右目を閉じて左目だけが蒼く煌々としている、たてがみのある兎。まるでぬいぐるみのような外見。
「なーに」
「ゼノ、お前っていったい何なんだ?まだ聞いてなかったよな」
「僕はこの世界がより良くなるようにあれこれする・・管理者。うーん、庭師みたいな存在かな」
「管理者?庭師?ていうかここ植物のバケモノだらけだよな。庭って言うか植物の無法地帯だ」
アリオンは周囲を見回した。
「リーフチャンネルにある植物は一見植物だけど、この葉っぱや茎は過去の色々な情報で構成されているんだ。情報そのものなんだよ。そしてすべての生物と枝続き(えだつづき)になっている。今までに生きて死んだ生物の記憶とかもみんな有るんだよ」
ゼノは足元の大きな葉を足踏みして見せた。
「全部?」
アリオンは足元から頭上を見上げてスケールの大きさにおののいた。下から昇ってきたが上にもまだまだ行けそうに見えた。底も見えず天井も見えない。ただ植物が上を目指して伸びている空間。
「うん全部。この長い植物の茎や枝は全て過去に生きた生命を記憶してるんだ」
「首が痛え。そもそもリーフチャンネルって何?」
「アリオンの居る世界と同じものだよ。アリオンの世界と同じ位昔から存在してる」
「は?ここが?」
植物に覆われ、生き物は自分とゼノとよくわからない獣しかいないどうみても別世界でしかない。
「チャンネルが違うから違うものに見えるけど同じ場所にあるものなんだ。ここではアリオンの居る世界で死んだものもいつまでも残って見えるけど。でも同じ世界だから生体プログラムを使えるんだよ。
因みに森はリーフチャンネルがアリオン達の世界にはみ出した時の姿。時々そっちの世界との境が薄くなってしまうんだ」
「まじかよそれ怖えよ。・・??あれ、でも俺が森でイオと話した時、生プロ起動しなかったぞ。
おかげでバケモノに殺されかけた」
片眉を吊り上げてアリオンは抗議した。
「森の中でもプログラムを使える場所と使えない場所があったはずだよ。生体プログラムを使えなかったのはイオの過去を見ている時さ。あの時は僕が森、つまりリーフチャンネルを通してイオの過去を見せたの。過去の記憶は干渉を受け付けないんだ」
アリオンは怪訝な表情を浮かべた。
「俺はイオと話せたぜ。花も食べ物ももらって食べた。レターまで送られてきたし」
ゼノは困ったようにうつむいた。
「そこらへんはね、イオの中の深緑がおかしくしてるんだ。僕はただアリオンにイオの過去を見せようとしただけだった。だけどあの時二人が会話できてしまったんだ。他にも、イオがモンスターを倒した姿を見ただろう」
「アレなんだったんだ?モンスターもいて急にゲームかって思った」
前のめりになったアリオンにゼノは言った。
「あのモンスターは森からアリオンを狙って来たんだ」
「俺?なんで」
「・・言いにくい事なんだけど君はとても森に狙われているから」
「な、なんで!?」
思わぬ話題の矛先にアリオンは聞き返した。
「一度森に入って抜け出してるだろう。どうしても手に入れたいと思われてるんだよ」
「森にィ!?あ、あきらめろよ。ゼノは管理者なんだろ、なんとかしてくれ」
「それが森の管理は僕の手を離れてるんだ。だから手出しは難しくて時々助け舟を出すのが精いっぱいなんだ。出来る限りは護るよ」
「嘘だろ・・過去を見せたりとか凄い事できる癖に」
「あれは抜け道的な手法で管理にばれないようにやったんだ。だから・・ごめんね」
誰が管理してるんだ、と言おうとしてアリオンは開いた口を閉じた。今はこの話を突き詰めている場合ではないと思った。
「わかった。納得いかないけど話を続けてくれ、ハア」
「ありがとう。あの時イオの腕が緑色に光ってモンスターを倒しただろう。アリオンを助けようとして、深緑がおかしな力を彼女に力を与えてしまったんだ。本来、彼女にああいった力は無いんだよ。
そもそも深緑がイオに入るのはこの出来事の後なんだけど、イオはこの時点ですでに深緑の力を使っている。現在・過去が深緑によってめちゃめちゃに無視され、過去の記憶の中でさえ力を発揮してるんだ。彼女が今も進行形で深緑の支配を受けている証拠だよ」
アリオンはうなった。
「うーん、深緑がこの世界でもやばいっていうのはわかった」
「世界共通だね」
「気になってたんだが俺にイオの過去を見せたのはどうしてなんだ」
「アリオンはイオをゼノスに連れて行くか迷っていただろう。無理もないけど僕の事も疑っていたし。どうやったら一緒にゼノスに来てくれるかなって考えたんだ。イオの過去を見せたらその気が沸くと思ったんだ。実際来てくれる気になったんだろう?」
アリオンは頭を掻いた。
「まあ確かになったけど。完全に手のひらの上で踊らされてるな俺」
「森に引き込まれたのは災難だと思ったけど、その状況を利用させてもらったんだ。
話の続きだけど、レターもそれと同じ形で送られたはずだよ。深緑がイオの気持ちをレターの形にしてアリオンへ送ったんだ。深緑がアリオンのアドレスを読み取ってね」
「レターは本当にイオから届いた物だったのか」
アリオンは呟いた。彼女が自分に届けたかったもの。
あのレターにはやはり意味があるに違いない。アリオンは全身に力が沸いてきて乗っていた葉を飛び降りた。
「ゼノ、俺は彼女を救い出したいんだ。あの場所に案内してくれよ。あの白い場所なんだっけ」
「ブラクト。アリオン待って、いや実はね」
今まで雄弁だったゼノの耳が下がってきた。
「前より入るのが大変になっちゃったんだ。この間君が入った時ガーディアンが活発化しちゃったからね・・」
「ガーディアン?ゲームか?」
「ゲームじゃないってば。心を守っている守護者だよ。アリオン、この間彼らに追い出されたじゃないか。心に入るっていうのは並大抵の事じゃないからね」
「でもゼノはここの管理者なんだろ。そいつらなんか顔パスだろ?」
「それが前は僕のいう事よく聞いたんだけどね・・。この間アリオンに過去を見せようとして無理に森と繋いだりしたから今は手がつけられない位に荒れちゃった。ごめんね!・・お詫びと言っては何だけど、僕がおとりになるから一緒にブラクトに行こう?だから顔むぎゅうってじないでゆ゛る゛じ で ・・」
辺り一面、白に覆われた世界にアリオンは再び降り立った。ブラクトは、イオの心の外壁のようなものらしい。イオの過去もこの空間のどこかにあるという。
前後左右上下全て真っ白だった前回と比べて、何やら目の前に白い輪郭のおぼろげな造形が見える。
「あれはなんだ?」
アリオンがつかんでいたゼノの顔から両手を離すと、ゼノはブルブルと全身を大きく震わせて着地した。
「はあ、解放された。あれはね、中にイオが居る所だよ。前回僕らがここに来た時から時間が流れて、様々な事が彼女の身にあったからね。彼女にも変化が起きていて、それはこうしてここにも表れているのさ」
「そうなのか」
アリオンが歩き出そうとすると、ゼノはさっと前に進み出た。
「待って、近づくにはガーディアンをやり過ごさなきゃいけない。僕が注意を引く。僕の姿が視界から消えたらその間にアリオンは急いであの建物に行くんだ」
「見つかったら?」
「外に追い出される。アリオンはアリオンの世界に戻される」
そう言うとゼノはすたすたと一人で前方に歩き出した。すると目の前に二つ人型が現れた。
「やや、君たち。この間は軽率にここを森とつないだりして悪かったね。謝りに来たんだ。向こうの方でお話でもいかが?」
ゼノがぴょんぴょん跳ねながら西の方へ走り出すと、もやに覆われたそれも音もたてずにゼノの後を追いかけて行ってしまった。手前に居たアリオンは感知されなかった。
アリオンはゼノが言った通り、彼らの姿が見えなくなってから白い目標物に向って走った。以前は走っても走っても前に進んでいる感覚が無かったが、今回は走るとどんどん目の前の建物が近づいてきた。
それは、白い家の形をしていた。一階建ての小さな平屋で、三角の屋根、壁には小さな窓が一つついている。アリオンがのぞき込むと、中ではあの日と同じようにイオが横たわり眠っている姿が見えた。
「っと困ったぞ。入り口が無い」
白い壁の周りを2、3周して、アリオンは小さな窓の前に再び立ち止まった。
「イオ、俺だ。アリオンだ、来たよ」
呼びかけてみたが、修工店と同じように目覚める気配がない。反対側の壁に沿うように置かれた寝台に横たわったイオの身体は胸のあたりまで白いかけ布団が掛かっていた。一見、部屋の中にそれ以外の物は何もないように見える。小窓に向ってもう一度呼びかけようとして、気が付いた。蝶が群れを成し彼女の周りに留まっている。そう思ってよく見るとそれは蝶ではなく白い花だった。
まるで修工店とそっくり同じ光景にしばし見惚れていると、かすかに何かが聞こえてきた。
・・はろー、
こんNNちはー・・
こちら・・おん いお OTOしてくDさい
あり=ん イオ はろー
げん ―です か
部屋の中に雑音のように響く音は、その後も繰り返し続いた。店で繰り返し唱えた言葉たちだ。
アリオンはできるだけ窓に顔を近づけて言った。
「はろー イオ アリオンだ」
言葉が通じない事も忘れて自動翻訳も使わず。
窓にガラスがはまっていない事に気が付くとアリオンは片腕を突っ込み、イオの眠る横顔に向けて手を振った。
すると、ほんの少し空気が動きアリオンの顔に花の甘い香りがふわりと届いた。白い花の香り。できるだけ胸いっぱいに吸い込むと鼻がつんと痛くなった。
声はイオに届いて居た。それが嬉しかった。
「俺は君に会いたいんだ。目を覚ますの待ってるから」
後ろを走るどたどたという足音に我に返る。
「アリオーン!」
「ゼノ」
「そろそろだめそう、ごめーん!」
長い耳をなびかせてホップするその後ろには二体の人型ガーディアンが迫ってきていた。
アリオンは小窓を振り返るともう一度言った。
「また来るよイオ。アリオン、いや、”あいおん”がね」
次の瞬間光が目の前を覆いつくした。
朝のゆるやかなカーテン越しの光の中、アリオンは自室で目覚めた。
起きて見回すと部屋は予想通り散らかっていて、今までの生活感で溢れている。イオを見るようになって手を付けなくなった作りかけのアンドロイドのパーツもあった。触らなくなったのは本物を手に入れたからだろうか。少し前までは暇さえあればだったのに、ずっと過去の事に感じた。旅に出るならこの部屋ともさよならする事になるだろう。
アリオンは散らばったものを脇に寄せると、外出に向けて鞄を準備した。財布、ハンカチ、ティッシュ、簡単な着替え、そしてオールフリーパス。
準備が終わると、後ろを振り返る事無く玄関の扉を開けて外に出た。
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